新リーグディビジョン分けに関する報道について思うこと

新リーグ"ジャパンラグビーリーグワン"のディビジョン分けの発表以降、ラグビー記者・ライターの記事(スポニチ阿部氏向風見也氏など)を読んでいてどうも違和感をぬぐえなかったのですが、昨日吉田宏氏のブログ記事を読んで、違和感を感じていた所以を理解しました。

吉田氏は、以下のように書いています。

一部では、足元を掬いたい報じられ方もしてるけど、その多くは、問題視するスタートラインが間違っている。

すでに昨年5月の段階で、首を傾げたくなるような部分が露見していたのだ。

その時点で推察できる、悪いシナリオが、すこしマシになったことは理解しとかないと。
なので、個人的には、今回発表された「結論」は概ね正当なものだ

昨年の〝やり方〟で決めていたら、もっとヘンテコなものになっていただろう。

 

ただ、「公正さを欠く」などという誹りは受けることになってもしようがない。

そういうの振りかざしたい人はゴマンといるものだ。

 (この続きでもっと底意地が悪い、品がないことを書いていますが、そちらは省略します)


吉田氏のなかではチームの序列の結論があらかじめて決まっていて、その根拠はチームの競技力です。社会貢献や地域貢献などの要素ははなからオマケだと思っていて、重視していないのです。

筆者も競技力に焦点を当てたディビジョン分けに関する記事を先日書きましたが、チームの競技力とはチームの母体企業がお金をいくら出すかでしかないわけです。少なくとも今までは。

 

谷口前準備室長の新リーグに対するアプローチについては、Number Webの野澤氏との対談記事がネット上で読めるものとしては一番詳しい情報です。

谷口氏は、「前提として、今まで一生懸命にラグビーを支えてくれた方々のことを否定する意図は誰にもないです」と言うように、大企業のラグビーへの貢献の大きさは否定しませんが、以下のようにも語っていて、大企業に必ずしも依存しない形を目指そうとしています。

新型コロナの影響が続いて「ウィズコロナ」でやっていかなければいけないとなると、たとえば1万5000人収容のスタジアムで席を1つずつ空けたとしても観客は7500人です。計算が狂ってきますよね。これから大きなスポンサーさんを獲得したりVIPチケットがバンバン売れたりしたらいいですけど、今後はきっとそんな時代ではない。これからは草の根ラグビーではないけれども、たくさんの人、たくさんの企業さんにスポンサードして頂ける仕組みの方がいいのではと話していたところです。

 

幸いなことに私はイチ研究者として研究費の問題に常に直面してきましたし、お金がないNGONPOにずっと関わってきたのでお金がない状況に慣れきっているところがあります。今できる範囲のことを着実に進めていけるので、この状況で準備できるのはラッキーなことだと捉えています。


どこかから大金が降ってくると考えていたかのような、お花畑のプロリーグ構想が頓挫し、トップリーグから脱却した新たなリーグを目指すうえで最低限必要なチームの法人化も必須とされない、というわけのわからない状況からミッションを引き継いだのが谷口氏だったわけです。

 

ラグビー業界の外側の立場から見て、大企業が部活動への投資をやめたら終わりという構造こそが喫緊の課題と捉え、持続可能性をもっとも重視すべき点に据えたことは、サラリーキャップに関する以下の発言からも理解できます。

企業も新型コロナ後にすごく大変になります。年俸が高騰すれば「ラグビーチームをやめよう」という声が大きくなるかもしれない。年俸に上限を設けることは企業にとっての抑制策でもあります。誰か1人が得するような仕組みではなく“三方良し”というか、みんなで良くなろう、という考え方でないと持続可能性は担保できないだろうなと感じていますね。

 

ラグビー業界歴が長い記者・ライターであれば、企業都合で休部・廃部になったチームをいくつも見てきているでしょうに、チームの持続可能性とその解決策について言及しようとする姿勢がほとんど見られないのが残念に思います。

 

直近の企業都合による休部の事例であるコカ・コーラについて、吉田氏は別の記事で書いています。

新リーグ、プロ化を反対はしていない。だが、新たなステージを築くためには、それこそ新たな工夫が様々なエリアで必要になるということだ。光り輝く場所にも、暗闇のエリアにも。


自然淘汰〟と割り切る意見もあるかも知れない。物事が進化する時は必ず起こる現象でもある。だが、ラグビーが築き上げた文化は、お互いの選手が、チームが、互いに敬意を持ち、クラブがそれぞれに積み上げた文化を尊重しながら、共に前進していくというものだと、いままでプレーヤーとして、取材者として学んできた。チームの消滅は起こりうる現実だと認めながらも、あらゆる可能性を模索して、チームの存続や、選手が再び不安や苦労することなく楕円球を追う環境を待守ることは、誰の使命かをしっかり認識するべきだろう。

お金の出所にはまったく触れない、ポエム(個人のブログなのでよいのですが!)のような文章です。

 

ラグビー業界の記者・ライターが書いたディビジョン分けの審査に関する記事では、準備室側のコミュニケーションのわかりにくさの問題として捉えられることが大半だったと思います。

もちろん業界の外側の人である谷口氏のアウトプットや情報発信のあり方に理解しにくい部分があった可能性もあるでしょうが、コミュニケーションの問題は片側だけに原因があることはほとんどないですし、日経xwomanの記事を読む限り、ラグビー業界のムラ社会にこそ問題があったと思わざるを得ないように感じます。

 

谷口氏が志向していた持続可能性の方向が最適解だったかどうかは別として、具体的に未来に向けて道筋を立てようとしてた人を、持続可能なあり方についてまったく触れない人が冷笑するのはあまりに不誠実でしょう。

自分の好む方向と別であったにしても、今まで業界が先送りにしていた難題に取り組む人の努力への敬意が感じられないのは残念です。

先にあげた対談記事の野澤氏の発言からは、谷口氏の取り組みに対する敬意や共感が感じられますが、それは野澤氏が私企業(山川出版社)の経営者だからなのでしょうか。

 

代表が強くなればお金が回るとシンプルに考えている業界関係者が多いのかもしれませんが、なでしこジャパンの事例などを考えると、そうイージーなものではないと思います。

 

静岡ブルーレヴズの山谷氏、NECグリーンロケッツ東葛の梶原氏のような外の世界を知る人材がチーム経営に携わることで、内向きだったラグビー業界も変わらざるを得ないでしょうし、そこにこそ新リーグを立ち上げる意義があるのでしょう。

 

さて、数年後でもいいので谷口氏には、ラグビー協会、準備室での顛末を手記にまとめてほしいと思います。

女性がオジサン社会で働くことの困難さ、日本型組織のガバナンスの問題を理解するうえで、きわめて示唆に富むケーススタディになるでしょう。